日本のネットで広がる「外国人優遇」デマを考える
公開日:2025-11-23 更新日:2025-11-23
テレビやネットで、「日本人より外国人が優遇されている」「外国人ばかり得をしている」といった言葉を目にすることがあります。
しかし、その多くは事実と違う情報(デマ)や、一部だけを切り取った誤解です。
ここでは、地上波の情報番組を見る人をイメージして、できるだけやさしい言葉で整理してみます。
1. 状況(いま何が起きているのか)
SNSや動画サイト、まとめサイトなどで、こんな情報が広がっています。
- 「生活保護は外国人ばかり」
- 「留学生は学費タダ、日本人は損をしている」
- 「外国人は税金を払っていないのに、医療や保険で得している」
- 「外国人犯罪ばかり増えていて、日本人が危ない」 など
しかし、ファクトチェック(事実確認)をすると、次のようなデータが出ています。
- 生活保護世帯のうち、外国籍の世帯は約3%前後であり、「3分の1が外国人」という言い方は明らかな誤りです。
- 税金や社会保険料は、国籍ではなく、収入や働き方で決まる仕組みで、日本人と外国人でルールが違うわけではありません。
- 外国人犯罪の件数も、長い目で見ると2000年代半ば以降は減少傾向で、「急増している」というイメージとは逆のデータもあります。
それでも、「外国人ばかり優遇されている」と感じさせる情報は、繰り返しネット上に出てきます。
2. 原因(なぜ、そう見えてしまうのか)
こうした「外国人優遇」デマ・誤解が広がる背景には、いくつかの要因があります。
不安や不満が強くなっている
- 物価高、賃金の伸び悩み、将来の不安などから、
「自分たちは苦しいのに、誰かだけ得をしているのではないか」と感じやすくなっています。 - その「誰か」が、**目に見えて分かりやすい存在(外国人・移民)**に向けられてしまいます。
- 物価高、賃金の伸び悩み、将来の不安などから、
制度が複雑で、誤解が生まれやすい
- 生活保護、奨学金、医療保険、税金の仕組みは、とてもややこしいです。
- 一部だけを切り取ったグラフや数字を見て、「やっぱり外国人ばかり得している」と思ってしまうことがあります。
アクセス数や票を集める“ネタ”として利用されている
- 「外国人が得している」「治安が悪くなる」といった刺激的な言葉は、
SNSでの拡散や、動画の再生数を伸ばす“ネタ”になりやすいです。 - 一部の政治家・団体が、「外国人を減らせば全部解決する」といったメッセージで、支持を集めようとするケースもあります。
- 「外国人が得している」「治安が悪くなる」といった刺激的な言葉は、
災害・コロナなどの非常時に、差別的な噂が出やすい
- 熊本地震などの災害時に、「外国人が略奪している」などのデマが流れた例があります。
- 新型コロナのときも、「外国人がウイルスをばらまいている」といった根拠のない情報が世界中で広まりました。
3. 問題定義(何が問題なのか)
「外国人優遇」デマの問題は、単に“ウソだからダメ”というだけではありません。
誰かを悪者にして、社会の分断を深める
- 実際には制度上の優遇がないのに、「外国人のせいだ」と思い込むことで、
近所の外国人住民や、学校の友だちにまで、冷たい目が向けられます。 - その結果、いじめ・差別・排除につながるおそれがあります。
- 実際には制度上の優遇がないのに、「外国人のせいだ」と思い込むことで、
本当に直すべき課題が見えにくくなる
- 少子高齢化、低賃金、福祉制度のひずみなど、本来は日本社会全体の課題なのに、
「外国人を締め出せば解決する」と誤解してしまうと、問題の本質が見えなくなります。
- 少子高齢化、低賃金、福祉制度のひずみなど、本来は日本社会全体の課題なのに、
政策や選挙の議論がゆがむ
- デマを前提にした議論が広がると、
- 「事実に合わない厳しい制度」
- 「特定の人だけを標的にした法律」
が求められやすくなります。
- そうなると、日本の人権や国際的な信頼にも影響します。
- デマを前提にした議論が広がると、
4. 予測(今後どうなりそうか)
AIで作る“もっと本物っぽい”デマが出てくる
- 生成AIの発達で、本物そっくりの偽画像・偽動画を作ることができます。
- たとえば、「外国人が暴れている」ように見える動画が、実は別の国・別の事件の映像を加工したもの、というケースもあり得ます。
選挙や大きな事件の前後に、意図的な情報が増える
- 選挙や入管法などの議論があるときに、
「外国人をもっと制限すべきだ」「外国人のせいで治安が悪い」
といった投稿が、一気に増える傾向があります。 - 一部は、国内外の団体が“世論操作”を狙って流す情報の可能性もあります。
- 選挙や入管法などの議論があるときに、
「外国人をもっと制限すべきだ」「外国人のせいで治安が悪い」
信じる人と疑う人が、ますます分かれていく
- メディアリテラシー(情報を見抜く力)がある人と、そうでない人の差が広がると、 家族・職場・地域の中でも、情報の受け止め方の溝が深まるおそれがあります。
5. 対策(会社として・私たちとして)
5-1. 会社としてできること
ここでいう「会社」は、一般企業・学校・自治体などを広く含めて考えます。
社員向けの情報リテラシー研修
- 「外国人優遇」などの例を使いながら、
- 情報の出どころを確かめる方法
- デマと事実の見分け方
を学ぶ場を作る。
- 「外国人優遇」などの例を使いながら、
ハラスメント・差別発言のルールを明確にする
- 社内チャットやSNSで、特定の国や民族を悪く言う発言をした場合のルールを決める。
- 「笑いのネタのつもり」でも、差別につながる表現は慎重に扱う。
外国人社員・利用者への情報発信をていねいに
- 多言語での案内や、やさしい日本語の説明を用意し、
「よく分からないからトラブルになる」状況を減らす。
- 多言語での案内や、やさしい日本語の説明を用意し、
公式アカウントでの“訂正の声”
- 自社に関する誤情報や、「外国人だけ優遇しているのでは」といった誤解が広がった場合、
落ち着いたトーンでデータとともに説明・訂正する。
- 自社に関する誤情報や、「外国人だけ優遇しているのでは」といった誤解が広がった場合、
5-2. 私たち一人ひとりができること
拡散の前に「ちょっと待て」
- シェアやリポストをする前に、
- 公的機関や信頼できるメディア
- ファクトチェック機関
が何と言っているかを調べる。
- シェアやリポストをする前に、
「数字」「元データ」を見るクセをつける
- 「○割が外国人」という投稿を見たら、
「その数字はどこの資料?何年のデータ?」と、まず疑問を持ってみる。
- 「○割が外国人」という投稿を見たら、
差別的な投稿を見たときの行動
- 通報機能を使う、
- 事実を簡潔に示して、感情的にならずに否定する、
といった形で、**“静かなブレーキ役”**になる。
身近な人と、落ち着いて話す場を作る
- 家族や友人が「外国人ばかり優遇されている」と言ったとき、
「実はこんなデータもあるよ」と、対立ではなく情報共有の形で対話する。
- 家族や友人が「外国人ばかり優遇されている」と言ったとき、
6. 影響(私たち・社会にどう影響するか)
日常生活への影響
- 職場や学校で、外国にルーツを持つ人が
- からかわれる
- 無視される
- 理由なく警戒される
などの状況が生まれやすくなります。
- 職場や学校で、外国にルーツを持つ人が
地域社会への影響
- 外国人住民が多い地域が、ネット上で「危ない場所」として語られ、
根拠のないイメージが広がることがあります。 - これにより、地域の分断や、外国人住民の孤立につながるおそれがあります。
- 外国人住民が多い地域が、ネット上で「危ない場所」として語られ、
国際的なイメージへの影響
- 日本発の差別的な投稿やデマが海外メディアに取り上げられれば、
「日本は外国人に冷たい国だ」という印象を持たれる可能性があります。 - これは、観光・留学・ビジネスなど、さまざまな分野に悪影響を与えかねません。
- 日本発の差別的な投稿やデマが海外メディアに取り上げられれば、
7. 株価への影響
「外国人優遇」デマそのものが、すぐに株価を大きく動かすとは限りません。
しかし、間接的な影響は考えられます。
不買運動・炎上リスク
- 「外国人ばかり採用している」「外国人にだけ特典をつけている」といった誤情報が広がると、
特定企業への不買運動や炎上が起きる可能性があります。 - それが売上の落ち込みや、短期的な株価下落につながるケースもあり得ます。
- 「外国人ばかり採用している」「外国人にだけ特典をつけている」といった誤情報が広がると、
インバウンド・外国人労働者に依存する企業
- 観光業・小売業・介護・建設など、外国人顧客や外国人労働者に支えられている産業では、
排外的なムードが強まると、人材不足や客数減少につながるおそれがあります。 - こうした分野の企業にとって、デマ拡散は中長期的なリスク要因となり得ます。
- 観光業・小売業・介護・建設など、外国人顧客や外国人労働者に支えられている産業では、
プラットフォーム企業への規制リスク
- SNSや動画サイト運営企業が、デマ・ヘイトスピーチ対策を怠っていると見なされれば、
規制強化や広告主の離脱などが起きる可能性があり、
それが株価に影響することも考えられます。
- SNSや動画サイト運営企業が、デマ・ヘイトスピーチ対策を怠っていると見なされれば、
8. 今後の見通し(回復までの時間)
デマそのものは数日〜数週間で収まることが多い
- ある一つの投稿や噂は、
- 数日〜数週間で話題が変わる
ことがほとんどです。
- 数日〜数週間で話題が変わる
- ある一つの投稿や噂は、
しかし、心の中の“イメージ”は長く残る
- 一度「外国人=得をしている」「外国人=危ない」というイメージができてしまうと、
それを完全に消すには、年単位の時間がかかることもあります。 - 繰り返しデマに触れることで、「なんとなくそう聞いたことがある」という印象だけが残りやすいのです。
- 一度「外国人=得をしている」「外国人=危ない」というイメージができてしまうと、
少しずつ“慣れ”と“理解”が進む可能性も
- 一方で、学校教育やメディアによるていねいな解説、
実際に外国人と一緒に働き・暮らす経験を通じて、 「あれ? ネットで聞いた話と全然違う」と気づく人も増えていくでしょう。 - こうした地道な積み重ねが、イメージの回復につながります。
- 一方で、学校教育やメディアによるていねいな解説、
9. 同様の事例との比較
「外国人優遇」デマは、日本だけの話ではありません。
日本国内の例
- 関東大震災のころから、「外国人が井戸に毒を入れた」「略奪している」といった流言が繰り返し出てきました。
- 熊本地震など最近の災害でも、SNS上で同じような差別的デマが確認されています。
- コロナ禍でも、「中国人がウイルスを広めている」といった根拠のない情報が出ました。
海外の例
- ヨーロッパでは、「移民が福祉を食い物にしている」という言説が、政治的に利用されてきました。
- アメリカでも、「移民が仕事を奪っている」「治安を悪くしている」といったメッセージが、選挙キャンペーンで頻繁に使われました。
共通点
- どの国でも、
- 経済的な不安
- 社会の変化への恐れ
- 情報の拡散スピードの速さ
が組み合わさると、「外から来た人」を悪者にする情報が広がりやすくなります。
- どの国でも、
10. まとめ
「外国人ばかり優遇されている」という言葉は、
実際のデータや制度の仕組みとは合わないことが多く、デマや誤解に基づいている場合がほとんどです。問題なのは、
- 誰かを不当に悪者にしてしまうこと
- 本当に向き合うべき社会の課題が見えなくなること
- 差別や分断が深まり、日本全体の信頼が損なわれること
です。
私たちにできることは、
- 拡散の前に「ちょっと待て」と立ち止まること
- 数字や元データ、信頼できる情報源を確かめること
- 差別的な情報に、静かにブレーキをかけること
- 事実に基づいて、落ち着いて話し合うこと
ネットの情報は、便利で速い反面、間違いもたくさん混ざっています。
だからこそ、一つ一つの情報に対して、「本当かな?」と考えるクセをみんなで身につけていくことが大切です。
この「外国人優遇」問題をきっかけに、
日本社会全体で、“だれかを敵に回す”のではなく、一緒に課題を解決していく視点を持てるとよいですね。