認知戦(にんちせん)とは?
公開日:2025-11-21 更新日:2025-11-21
スマホ1台あれば、世界中のニュースや動画が一瞬で届く時代です。
その「情報の流れ」そのものを利用して、人々の考え方や感じ方をじわじわ変えようとする――。
これが「認知戦」です。
この資料の目的
- 「認知戦」という言葉を、ニュースで聞いても怖がらずに理解できるようにする
- 世界で今何が起きているか、日本はどう向き合おうとしているかを知る
- 私たち一人ひとりが、だまされにくくなるためのヒントを得る
1. 認知戦を一言でいうと?
爆弾ではなく「情報」を武器に、人の頭の中(ものの見方・感じ方・信じ方)をコントロールしようとする戦い。
専門的には、世論や政治家などの「認知(現実をどう理解しているか)」を狙った作戦のことを指します。
NATO(北大西洋条約機構)などでは、「人の心や頭そのものが戦場になっている」と説明されています。
2. どんな手口があるの?
ここでは代表的な例だけを、イメージしやすく挙げます。
偽情報・フェイクニュースを流す
- まったくのウソを「本当のニュースです」として広める
- 一部だけ本当で、残りを盛ったりねじ曲げたりする
切り取られた写真・動画を使う
- ある場面だけ切り出して、「この政治家はこんなひどいことを言った」と印象づける
- 実際には前後の文脈を聞くと意味が違うパターン
大量のアカウントやボットを動かす
- 同じような意見を一斉に投稿して、「世の中の多数派はこっちだ」と思わせる
有名人・インフルエンサーを通じて広める
- 「広告」ではなく「個人の感想」に見せかけて、特定の国や考え方に有利な情報を流す
AIで作った“もっともらしいウソ”
- 本物そっくりの偽動画(ディープフェイク)
- AIを使って自動で記事やコメントを量産し、検索結果やSNSを埋め尽くす
ポイントは、「一発の大ウソ」よりも、たくさんの情報で頭を疲れさせ、『何が本当かわからないから、もう考えるのはやめた』という状態に追い込むことです。
3. なぜ認知戦が広がっているの?
理由はいくつかあります。
スマホとSNSの普及
- ほとんどの人が24時間オンライン
- 国境を越えて情報をばらまきやすい
お金があまりかからない
- 戦闘機やミサイルより、偽情報の方がはるかに安い
- しかも相手国の中から分裂を起こせれば、軍事力を使わずに有利になれる
社会の分断と不信感
- 政治への不満、都市と地方の対立、世代間ギャップなど
- もともとある「割れ目」を、偽情報で広げると社会がバラバラになりやすい
4. 国際的な現状
4-1. 欧米・NATO
NATOは、認知戦を「社会の中に不信や分断を広げ、人々の行動を変えさせる新しいタイプの戦い」と位置づけています。
- 軍事だけでなく、選挙や世論にも影響を与えうる
- そのため、サイバー・宇宙と並ぶ「新しい戦いの領域」として研究・対策が進んでいます
4-2. 中国
中国軍(人民解放軍)は「認知域作戦」「認知戦」という言葉を使い、
- 相手国の心理や意思に影響を与え、
- 思考そのものを変えることを目的とした作戦
を重視していると分析されています。
従来からあった「情報戦」「心理戦」「世論戦」に、AIなど新しい技術を組み合わせて、より高度な「頭の中の戦い」を目指しているとされます。
4-3. ロシア
ロシアは、ウクライナをめぐる対立や各国の選挙などで、大規模な偽情報キャンペーンを行ってきたと多くの研究で指摘されています。
- SNS上のボットや「ネット工作部隊」を使って、対立をあおる
- 「西側の民主主義はもうダメだ」「どの情報も信じられない」と思わせる
最近では、AIで作った偽ニュースや動画を使い、他国の選挙に影響を与えようとしたとして制裁を受けたロシア組織も報告されています。
4-4. 日本
日本でも、防衛白書や国家安全保障戦略の中で「認知領域を含む情報戦」への対処が明記されています。
- 他国による偽情報に惑わされず、事実を確かめる体制を強化する
- 自衛隊や防衛政策について、正しい情報をわかりやすく発信する
一方で、日本が他国の世論を操作するような「認知戦」を仕掛けることはしない、ともはっきり述べられています。
5. 将来展望 ― これからどうなりそう?
5-1. 技術面:AI時代の認知戦
- 文章・画像・動画をAIが自動で大量生成
- 一人ひとりの好みに合わせた「ピンポイント偽情報」
- 本物そっくりの偽動画(ディープフェイク)の精度向上
すでに、ロシアやイランなどがAIツールを使って、選挙向けの偽情報キャンペーンを行っていたとして制裁を受けた事例もあります。
今後、「どれが本物の映像かわからない」世界になる危険も指摘されています。
5-2. 安全保障・外交の面
- 認知戦は、戦争がはじまる前から使われる「準備の戦い」になりつつある
- 各国は、防衛力だけでなく「情報・世論」を守ることも安全保障の一部とみなすように
その一方で、
- 表現の自由・報道の自由をどう守るか
- 政府が「これは偽情報だ」と言ったとき、本当にそうなのか誰がチェックするのか
といった難しい問題も増えていきます。
5-3. 社会・私たちの暮らし
悪いニュースばかりではありません。
台湾などでは、市民向けの偽情報対策教育や、ファクトチェックの仕組みを整えることで、認知戦の影響を減らそうとする取り組みも進んでいます。
今後は、
- 「情報の読み解き方」を学校や地域で学ぶ
- 高齢者向けにもやさしいメディアリテラシー講座を広げる
といった形で、社会全体の「だまされにくさ」を育てることが重要になります。
6. 私たち一人ひとりにできること
難しい専門知識がなくても、今日からできることがあります。
6-1. 「すぐ信じない」クセをつける
- 強い怒りや不安をあおる投稿を見たら、いったん深呼吸
- 「本当にそうかな?」と一度立ち止まる
6-2. 情報源を「二つ以上」見る
- 1つのSNS投稿だけで判断しない
- 新聞社・テレビ局・公的機関など、別の立場の情報源もあわせて確認する
6-3. 「拡散ボタン」を押す前に3秒考える
- その情報は、誰かを不必要に傷つけていないか
- 「自分が後で責任を持てるか?」と自分に聞いてみる
6-4. 家族・友人と情報について話す
- 「このニュース、どう思う?」と話し合うことで、違う見方に気づける
- 一人でスマホ画面だけを見ていると、考えが極端になりやすい
7. まとめ
- 認知戦は、「人の頭の中」をターゲットにした情報の戦い
- 偽情報・SNS・AIなどを使って、社会の分断や不信感を広げようとする動きが世界中で見られる
- 日本も「騙されないための守り」を固めつつあり、同時に私たち市民のメディアリテラシー向上が欠かせない
最後に、一言でまとめると――
これからの安全保障は、「国を守る」だけでなく「みんなの頭の中を守る」ことでもある。
そのための第一歩は、**「すぐ信じない・すぐ拡散しない」**という小さな習慣からです。